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「画家が歩いたベルギーの古都」展
画家の歩いたベルギーの古都」展に寄せて

財団法人 美術文化振興協会名誉会長
小和田 恆 (国際司法裁判所裁判官)

 財団法人美術文化振興協会は、「広く美術文化の交流を促進し、日本文化の伝統を基盤とした創作活動を奨励すると共に、諸外国との芸術作品の交流を図り、もってわが国美術文化の向上と発展に寄与する」ことを目的として、昭和56年(1981年)に設立されました。爾来、特に海外の美術文化との交流を通して我が国の美術文化の振興発展に寄与することに力点をおいて、事業を展開してまいりました。
 このような目的を実現するために協会はこれまで多様な活動を行って来ております。美術作家の顕彰事業の分野では、美術文化振興協会賞を創設して日本画、洋画部門において顕著な独創性のある作品を発表した作家を表彰することに取り組んで来ました。優れた具象洋画作品を発表した作家に与えられる宮本三郎記念賞及び書の分野での著しい業績に対して与えられる右卿記念賞の授与を行って来たのも同じ趣旨によるものです。また美術文化に関する国際交流の分野では、海外主要大学に日本美術文化講座を開設して(米国 ハーバード大学1982年〜90年、オランダ ライデン大学2005年〜)講師派遣を行って来ていることが挙げられます。そのほか、国際芸術交流展(2002年)及び日本中国国際版画展(2001年)への協賛、海外美術館、博物館への日本の美術品の寄贈事業なども行って来ました。
 こうした国際交流分野での事業の一環として、協会は平成15年度の事業計画として「日本の作家による海外写生計画」を立案しました。芸術の第一線で活躍する日本の作家が、日本の文化伝統とは生いたちを異にする文化環境との触れあいを通じて、新しい創造への刺激を汲みとることに大きな意味があると考えたからです。特にオリンピック、万国博覧会等の開催をひかえてこのところ変貌いちじるしい中国の伝統的景観の姿を作家の目を通して残したいとの思いから、「洋画・日本画の作家による中国写生旅行」を企画いたしましたが、残念なことに、この企画はこの年猛威をふるったSARS(重症急性呼吸器症候群)のため断念せざるを得なくなりました。そこで、これに代わって当時の協会理事長故阪本福史氏(平成16年6月逝去)の発案によって、ヨーロッパの古都ブリュージュを中心とする「ベルギー王国写生旅行」を企画することとし、協会関係作家の方々の積極的参加を得て実現の運びとなった次第です。今回の「画家の歩いたベルギーの古都」展は、このような経緯を経て実現した協会の平成15年度事業計画の成果の一端を示すものに他なりません。
 オランダ・ドイツ・ルクセンブルク・フランスに接するベルギーは、首都ブリュッセルを境に北部はフラマン系(ゲルマン/オランダ系)、南部はワロン系(ラテン/フランス系)とに分かれます。このように、異なる伝統をもった文化圏をひとつに包摂するこの地域は、文化の多様性を誇りとする「統合ヨーロッパ」の象徴ともいうべき存在だということができます。今日、ブリュッセルがEU(ヨーロッパ連合)の本部として「多様性の中の統一」を目指すヨーロッパ統合の中心的機能を果たしていることは、ご承知のとおりです。
 永い間貿易、交流の中心として栄えて来たこの地域の街々では、ロマネスク、ゴシック、バロックから近代モダン建築まで、多くの魅力ある文化遺産に出会うことができます。鐘楼がそびえる教会や城塞の塔に象徴される古いヨーロッパの面影がいまだに残っていることはいうまでもありません。それだけでなく、水路・橋・路地から家々の屋根・窓辺・レンガ壁に至るまで、何気ない風景の中に昔ながらのたたずまいを残す古都の陰翳が影を落としています。そして更に、現代建築にふちどられた風景の中にも歴史の跡が深いニュアンスを残していることが感じられます。その意味で今回の企画は、洋画、日本画などさまざまに分野から参加して下さった日本の画家の皆さんにとって新しい経験であったことと存じます。そしてこの旅が、ヤン・ファン・エイク、ピーテル・ブリューゲル、ル−ベンスなど、フランドル派の巨匠達が遺した歴史的遺産とジェームズ・アンソール、マグリット、デルヴォーなどのシュールレアリズム作家の造形表現に見られる現代性との間の繋りについても考える刺激を与えてくれたことが今回の展覧会を通して御覧いただけることと思います。
 このような文化的な特色豊かなこの地域への写生旅行に参加していただいた日本の画家は、これらの古都を歩き街角を描写することを通じて、何を心に残して来たのか。その成果がこういう形で展覧されることは、美術文化の交流という見地からもきわめて大きい意義をもつものと信じます。本展実現のためにご尽力くださいましたすべての方々に謝意を表します。
2005年4月
 

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